児童心理治療施設とは

○どのようなところですか ○治療とはどのようなことをするのですか ○家族の治療協力とは、どんなことですか
○地域関係機関との連携協力とは ○家族療法・外来相談は行っていますか ○施設での生活・日課はどうですか
○進路指導や退園後の状況はどうなっていますか

どのようなところですか

 児童心理治療施設とは、児童福祉法に定められた児童福祉施設で、心理的問題を抱え日常生活の多岐にわたり支障をきたしている子どもたちに、医療的な観点から生活支援を基盤とした心理治療を中心に、学校教育との緊密な連携による総合的な治療・支援を行う施設です。
 児童心理治療施設が援助の対象としているのは、心理(情緒)的、環境的に不適応を示している子どもとその家族です。子どもの対象年齢は小・中学生を中心に20才未満ですが、施設への入所(宿泊)・通所は児童相談所(長)が適当と認めた場合に「措置」として決定されます。
 施設は、集団生活により子どもの状況の改善を図ります。またカウンセリングなどによる心理治療を行って、子どもの成長・発達と自立を援助しています。
 また、家庭から離れて集団で過ごすことにより、家庭の中だけでは解決できない人間関係の「ずれ」や「つまずき」からのひと休みとか、心の見つめ直し、あるいは自分ってなんだろうという自分さがし、仲間との協調と思いやりの心を養うことなどをめざしています。

治療とはどのようなことをするのですか

 施設全体が治療の場であり、施設内で行っている全ての活動が治療であるという「総合環境療法」の立場をとっています。具体的には ①医学・心理治療 ②生活指導 ③学校教育 ④家族との治療協力 ⑤地域の関係機関との連携を治療の柱とし、医師、セラピスト(心理療法士)、児童指導員や保育士、教員など子どもに関わる職員全員が協力して一人ひとりの子どもの治療目標を達成できるよう、本人と家族をを援助していきます。
 心理治療は、児童精神科医やセラピストが週1回程度行っています。絵を描くことやゲームなど、いろいろなものを使って心の中の不安や葛藤を表現させ、それを乗り越えていけるよう手助けします。中学生ぐらいになると、カウンセリングもよく用いられます。問題を直接解決するというより、子どもの精神的な成長や子どもを取り巻く状況の改善を一緒にじっくり待つ、という場合もあります。子どもの気持ちに寄り添っていくのが基本です。たいていは個別で行いますが、時には集団で行うこともあります。一部の子どもたちには心理治療だけでなく、症状を軽くするため薬による治療も行っています。
 生活指導は保育士と児童指導員が担当します。施設にいる子どもたちのほとんどが仲間作りや集団の中でうまく適応していくことが苦手で、自分が皆から認められていないと考えていたり、自信を失っています。このような子どもたちも、日課の中での友だちや職員とのふれあい・遊び・スポーツ・作業など、皆と一緒に行動する楽しさを通して自信を取り戻していきます。自分の殻の中に閉じこもってしまいがちな子どもには、職員が個別で関わりながら徐々に集団の中に誘います。子どものどんな小さな努力でも認め、常に「愛情の点滴」を行って励まし、自分で行動することの楽しさを引き出していくことを大切にしています。
 学校教育は施設によって地域の学校、施設内の分教室・分校など様々な形態があり、教育委員会と連絡を取り合って行っています。一つの学級の人数が一般の学校に比べると小規模なので、集団が苦手な子どもでも教室に入っていきやすいようです。施設内の学校でも教材は地域の小・中学校と同じものを使っています。不登校などで学習の遅れがみられる場合は教材や教え方に工夫を凝らし、それぞれの子どものレベルに合わせて学習を進めていきます。

家族の治療協力とは、どんなことですか

 子どもが施設に入るということは、家庭から離れることであり、子どもが大変寂しい思いを抱いたり、家族も「あの子は施設で大丈夫かしら」と不安を感じることがあろうかと思います。このような寂しさや不安を取り除くために、家族の方にときどき施設に来ていただいて、こどもの成長ぶりを見ていただいたり、励ましていただいたりしています。また、子どもと一緒に遊んだり、買い物など外出していただく機会をもつようにしています。
 また、職員が家族の方と面接し、それぞれの悩みを解決していくための話し合いをしたり、子どもが家庭に帰ったときにはどのような関係作りをしていったらよいのかなどを、一緒に考えていきます。
 施設に入って、親子関係が希薄になったり、子どもの居場所が家庭になくなったりすることがないよう、週末帰宅を子どもや家庭の状況に応じて行い、親子関係を再確認していただくことにも努めています。また、家族に施設内に泊まっていただき、親子水入らずの時間がもてるよう図っている施設もあります。
 施設職員だけでなく、家族の方と協力し合うことにより、子どものより良い成長と自立を促していきたいと努めています。

地域関係機関との連携協力とは

 治療が終われば、子どもは施設から家庭や元の学校へ戻っていきます。このとき、地域でしっかりと受けとめてもらわなければ、同じことの繰り返しになってしまいます。。このため、元の学校で受け入れ体制をしっかりと作ってもらうよう、職員が学校訪問(子ども本人を伴って行くこともあります)や電話・手紙を通して協力を依頼しています。時には前担任に施設を訪問してもらい、子どもとの関係作りをお願いしています。また、家庭に戻っていく直前に、元の学校に試験的に通ってみる試験登校を行っている施設もあります。
 他にも、児童相談所をはじめとして地域の関係の方々に、子どもが家庭に戻って地域の一員として元気に生活でき、適応できるように援助をお願いしています。
 施設によっては、地域の方々に「不適応を示している子どもたち」について広く理解していただくため、シンポジウムや研修会を開催していますし、地域のいろいろな行事に施設を開放しています。また、子どもたちが地域の行事に積極的に参加し、社会性を身につけるよう心がけています。

家族療法・外来相談は行っていますか

 家族療法は、児童相談所の紹介により親子で施設に通って治療を受けていただく方法です。対象は不登校や集団に適応できない、また、緘黙などの子どもとその家族です。
 治療期間は症状の程度により異なっていますが、中には1年程度を要する場合もあります。
 費用は無料ですが、施設に宿泊していただく場合には、食事などの実費をいただくことになっています。
 家族療法で通っていただいているうちに、こどもを入所させて治療を受けた方がよいと考えられる場合には、施設入所に切り替えることもあります。また、入所治療が一段落し、家族療法に切り替えて通っていただくという場合もあります。
 ご希望の方は、児童相談所に申し込みをしていただき、遠慮なくご活用ください。
 また、多くの方々に施設を気軽に利用していただくため、子育てや子どもの問題行動などの相談を「外来相談」として実施している施設もあります。

施設での生活・日課はどうですか

 児童心理治療施設というと、病院のベッドの生活を連想されるかもしれませんがそうではありません。
 全国の53の児童心理治療施設では、それぞれに工夫を凝らし、より快適に安心できる居住空間づくりをしています。各生活棟や個室などで、基本的な生活習慣である食事や排泄、入浴、清掃や整理整頓の態度を育てたり、遊びや学習をする中で社会性を伸ばしたりしています。
 いわゆる心理治療を受けるだけではなく、生活をする場としての施設でもあるのです。
 日課は、子どもや職員とのふれあいの中で、実行力や自律・協調性を育てていくとともに、学習や作業活動を通して、自分の持っている豊かな可能性を伸ばしていけるように工夫しています。
 また、月間や年間を通じて、様々な行事も行っています。

●遊 び
元気よくサッカーやソフトボール、また卓球やバドミントン、バスケットボール。もちろん運動ばかりではありません。砂遊びやブランコなどの遊具を使った遊び、手芸やTVゲーム、将棋やトランプなどのゲームをしたりしています。あるいは、のんびりとテレビを見たり好きな音楽を聴いたりしています。行事として、サイクリング、登山、スキー海水浴などを行っています。

●学習・教育
施設内の分校・分級、または近隣の学校に通っていますが、登校ができなくて施設内で職員と一緒に学習したり、庭の草取りや園内の片づけを手伝ったり、おやつ作りをしたりなど、その子どもに合わせた作業プログラムで生活することもあります。

●月間・年間行事
誕生日会や買い物日、学園祭やキャンプ、クリスマス会。あるいは節分会やひな祭り、餅つき会などの伝承的な行事を工夫しています。

 こうした日々の暮らしの中で、対人関係が広がり深まりし、また、一人ひとりの個性を大切にしながら幅広い人間性を育てていきます。重んじながら主体性や協調性も育てていきます。

進路指導や退園後の状況はどうなっていますか

 進路指導については、近隣の学校や施設内学級などの進路指導担当者が中心となって、進学や就職の相談を行い、手続きを進めています。
 進路は今後の人生を大きく左右するので、子どもと家族の意見を尊重し、担任をはじめ施設長、担当の精神科医師、セラピスト、児童指導員、保育士などの職員が、様々な視点からよりよい方向を協議していきます。
 全国の児童心理治療施設を退所した子どもは元の学校に戻ったり、進学・就職しています。多くの子どもたちが自分自身をしっかり見つめることができるようになるなど、心の健康を回復し、成長・自立しています。
 治療中途で家庭に戻った子どもや、症状が重度化した子ども、なかには入所時の年齢が高く(児童福祉施設のため、在籍は20歳未満まで)治療が中断した子どもなどについても、退園後、相談にのり、アフターケアに努めています。