ご挨拶

 情緒障害児短期治療施設(以下、情短施設)は、1962年に岡山県に開設され半世紀を迎えようとしています。児童福祉法に定められている他の児童福祉施設と比較すると、歴史は短いですが、開設以来、軽度の非行、不登校(ひきこもり)、児童虐待、軽度発達障害等、その時代の子ども達の「心の問題Jについて、積極的に受けとめ支援する先駆的な役割を果たしてきました。こうした経過の中で、施設数はここ数年で倍増しており、2010年には全国で37施設になっています。この間各施設が、支援の実践について研究・検討を重ね、情報を交換する中で、全国の情短施設全体の力量を高めてきました。
 また、心理、医療、福祉、教育、栄養等の専門職員がチームワークによって治療を進める「総合環境療法Jという支援形態を提唱し実践してきました。
 昨今の多様化する児童の問題に対応するため、「総合環境療法」という形態を持つ情短施設への期待は高く、開設を検討している自治体が多くなっています。国の「社会的養護専門委員会」においても、「情短施設の設置の推進」が重要な検討課題となっています。こうした中で、協議会としても「情短施設の今後の在るべき方向」について、検討委員会を設置し、検討しているところです。
 少子化の流れの中で、家庭や学校、地域の中での適応が困難になっている子ども達は逆に増加し続けています。また、子どもを取り巻く社会状況も大きく変化する中で、「子どもの問題」も急激に変化してきています。情短施設が「地域社会の中で、どのような立場にあるのか、どのような期待を求められているのかについて、原点に返って謙虚に検証し整理して、私たちのできることを、再度、社会に提起していく時期に来ていると思います。
 今回発行する紀要は、内容、体裁等も大幅に改善されています。今年度、本紀要を国立国会図書館に申請し、ISSN(国際標準逐次刊行物番号)を付与していただきました。毎年1冊、22年間の地道な積み重ねの結果であり、とても喜ばしいことです。また施設数が増加するとともに、多くの実践や研究がなされると思いますが、「この支援が最高」というものでなく、日々新しい方法を見つけ検証していく努力が必要です。全国の情短施設が、日進月歩、子どもたちやご家族の幸せのために、謙虚に着実に成長していきたいものです。様々な改革が進む現在、私達には「児童の問題解決のリーダー」として、「専門性を高めつつ、情短施設としての独自性、存在感をアピールすることが求められています。

全国情緒障害児短期治療施設協議会 前会長 細江 逸雄
(「心理治療と治療教育」~情緒障害児短期治療施設研究紀要~第22号 巻頭言より)

情緒障害児短期治療施設 社会的養護の見直しと近未来像に向けて

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